読書雑感 2002   お勧めの本メニューへ  トップページへ

◯畑 正憲「ムツゴロウのため息」文春文庫☆☆☆
 
手術、囲碁、万年筆他、非平凡な人生の足跡。囲碁の話が面白く晩学で短期間に強くなっているのは著者のエッセイから伺える徹底さ所以、晩学で将棋を始めた僕には碁会所での雰囲気がよく解る、ただ僕は弱い者としか指さないような(打たないような)オッサンを師匠とは呼びたくないなぁ。

◯ジム・モーティマー「心理探偵フィッツ」二見書房
☆☆☆
 二年ほど前NHK-BSで放映されていた生活破綻者の心理学者が主人公のサスペンス、翌週が楽しみでドラマを観る喜びを起こさせてくれたシリーズの原作、フィッツもペンハリガンも魅力的だったジュディスも違和感無く(あたりまえか)蘇る、良くできたドラマだったと原作を読んで感じた。
 連続少女殺人犯の疑いをかけられた男が記憶喪失となって発見される、その真偽を巡ってよれよれ肥満のギャンブル狂フィッツが容疑者の深層心理に語りかける。NHKさんもう一回放送して、ERやビバリーヒルズより遙に短かかったよ。

◯野田 知佑「のんびり行こうぜ」新潮文庫
☆☆☆
 なんだ、おもしろいじゃないかと喰わず嫌いな自分を少し反省したカヌーイストで有名な野田さんの本、河川行政に対する辛辣な文やソビエトでの出来事など単なるアウトドアマンで無い事がこの一冊でヨーク解った。 辻元清美さんや漫画家の桜玉吉さんも読んでいるみたいだが、又読みたい人が増えて得した気分。

◯綾辻 行人「霧越邸殺人事件」新潮文庫
☆☆☆
 最高傑作の呼び声高い長編推理小説、雪の信州に隔絶された劇団員に起こるメッセージ殺人、期待が大きすぎて十角館や時計館を読み終えたときほどの壮快感はなかった、やはり僕にはもう一方の主題は無意味に感じた。

◯鮎川 哲也「りら荘事件」講談社文庫
☆☆☆
 
ほぼ半世紀前に書かれた古典名作、奥秩父で芸大、音大生を襲うメッセージ殺人、直前に読んだ霧越邸はこれのベースになったのではと読みながら思ったほど結果的に似ていた.、耽溺色が無い分むしろこちらの方が現代的であった。犯人はいつもの山勘でほぼ的中した。

◯桐島洋子「淋しいアメリカ人」文春文庫
☆☆☆☆☆
 名著、最高に面白かった。著者の実体験をベースに昭和四十年代のアメリカの性生活から国民気質を覗ったルポルタージュ、興味本位で読み始めたが、羨ましくも有り恐ろしくも有る記述に目を見張る。

◯朝日新聞特派記者団「グアムに生きた二八年」朝日新聞社
☆☆
 
元日本兵、横井庄一さんの穴居生活を記者の立場から綴ったもの。写真が見所

◯畑 正憲「ムツゴロウの千変万化」毎日新聞社☆☆☆
 ヤツメウナギには前から興味があったので「宝の川」は面白かった。先日TVで50年前、井戸の中に逃げたウナギが生きていた(自己申告、推量)事も含めて謎の多い魚類中でも更にグロテスクなこの種類、一度食べてみたい。

◯畑 正憲「ムツゴロウの絵本2」文春文庫☆☆
 
ヒグマが主人公の写真比率が多いエッセイ、冬眠の様子など解る。

◯野田 知佑「本日順風」文春文庫☆☆☆
 
アウトドア人生相談、気軽に読めるのでこの手の本は好きだ。

◯野田 知佑「カヌー犬ガク」小学館文庫☆☆
 
犬が擬人化して話すくだりは思わず読み飛ばした。犬好きが犬好きに送る本。

◯野田 知佑「日本の川を旅する」新潮文庫
☆☆☆☆
 北海道から鹿児島までの14箇所の河川下りの紀行文、日本ノンフィクション賞新人賞作品。個性的な各川の周辺の話題、風景リポート、奇麗な川よりも汚い川について書かれていた事が印象に残る。

◯トモ・チェセン「孤独の山」山と溪谷社
☆☆
 ヒマラヤに有るローツエという高山の人を寄せ付けない難度を持った壁を単独で登攀したユーゴ人の手記と小西正継さんのその行為がどれほど凄いかの歴史を含めた概略説明、そしてその後に起こった登攀行為の真偽をめぐっての論争等を三部構成にまとめている。
 登攀日記の内容が短い上に山によって分かれているので、凄絶な格闘シーンを期待すると肩透かしを食います。最初のヤルンカンの登攀記が一番面白かった。

◯ヒュー・ミラー「16の殺人ファイル」新潮文庫
☆☆☆
 少し前にブームになり巷に溢れたプロファイリング本、やっぱり最初に読んだ「FBI心理分析官」が一番だったがこの文庫本もなかなか面白かった、どの案件も面白かったが、「隔絶された人生」の読後感は印象深い。 この手の本は落ち込んでいる時には余り読まれないほうがいいと思います。

◯中島祥和「遥かなるマッキンリー」講談社
☆☆
 1984.2にアメリカ、アラスカ州の高峰マッキンリーにて消息を立った世界的冒険家、植村直己の追悼集。講演内容も掲載されている。

◯斉藤政喜「シャルパ斉藤の行きあたりばっ旅」小学館文庫
☆☆☆☆☆
 面白い本ですよ、これ、僕が今一番読みたかった本に出会え二日で読み終えました。 路線バスを乗り継いで東北まで行ったり、ヒッチハイクを重ねた人との出会いをメインに置いた旅を展開しているのがよく、南九州での人とのふれあいにホロッとする。
 只一つ疑問点と云うか、なんで?と思うのが著者のストイックなところである、他では貪欲に他人の好意を頂いているのになぜフランス人の女性の度重なる好意は受け入れなかったのか、禅の精神の間違った授受者を標榜する僕は理解しがたい。

◯長谷川恒男「北壁からのメッセージ」中公文庫
☆☆☆
 今は亡き名クライマーの親と子に向けたライフスタイルアドバイス、子供の時から揉まれて育ち、自分の言葉や居場所を獲得した人である事がよく解り、単なる岩登りのうまい人以上に識者で有った事が伺える。 こんな人が今のタレントに変わってTVなんかでいろいろコメントするのを聞きたかった。


斉藤政喜「シェルパ斉藤の行きあたりばっ旅2」小学館文庫☆☆☆☆
 ビーパルは創刊当時は少し買ったことが有ったが、最近は読まなかったのでこの人のことは知らなかったがどうやら知る人ぞ知る人であったらしい、今回も工夫を凝らせた旅が展開されている、耕運機の旅も犬任せの旅も面白かったが旅程が短いとやはり印象は薄い、一番面白かったのがオーストラリアでのヒッチハイク。九州の旅では、お人よしの著者も腹に据え兼ねたのか針灸院が実名で出ている。物々交換も南の島も面白かった。

野田知佑「北極海へ」文藝春秋☆☆☆
 カナダのマッケンジー河を北極海までのカヌーツーリング、こういった紀行文は読書の楽しみを喚起させてくれ、頁数が減るのが惜しい、日本人女性の2人組がその後どうなったか気になるが一番ドキッとしたのは、キャンプ中に斧を持って現れる白人の大男、相手が野田さんじゃなかったらジェイソンに変わっていたかもね。

能勢一幸「能勢一幸のクイズ全書T」情報センター☆☆☆☆
 第15回アメリカ横断ウルトラクイズでキャラが立っていて印象深いチャンピオンのウルトラクイズでの旅の記録、他の本にあるようなクイズ集じゃないのが好感が持てる。

クレイグ・マクラクラン「ニッポン百名山よじ登り」小学館文庫☆☆
 誰も居ない山頂の山小屋で一晩で読んだ本、日本人の書く遠慮や技巧に満ちた本と違い、自意識過剰、裏表無しの本音の登山の旅記録。 寂しい状況で読むには一番マッチした本だった、が、しかし、全編にステレオタイプの日本人ばかり登場し格好の添え物にされているのが腹立たしい。 
 
野田知佑「ゆらゆらとユーコン」本の雑誌社☆☆
 過去に掲載されたエッセイを寄せ集めて作った本でユーコン川を下っていく紀行文を期待すると肩透かしに会う。
他の著作を余り知らない僕には面白かった。

根深誠「チベットから来た男」岩波書店☆☆☆
 国内外の山行記なのだが周囲の人間観察や現地での折衝に重きが置かれていて斬新な感じがして面白かった。
海外遠征が書かれている本で現地での人間のいやらしさなんかには意外と触れていないことが多いと思っていたのでそれらの本よりもかえって雰囲気が味わえる、隊長としての気苦労も伺える内容だった。文中心の問題で非常に共感できるところがあり、苦しかっただろうなと思う。

内藤國雄「コンピューターと勝負する」神戸新聞総合出版センター☆☆
 内藤九段に目前で直筆サインして貰った本だったが、全体の80%は知っている内容の再編集本だった、専門誌に掲載されていたエッセイが中心。内藤さんのエッセイはプロの作家のそれと較べても見劣りしないどころか着眼点、考察も鋭く未だ読まれた事の無い人には是非読まれることをお勧めします。初めて読む人には☆は5つあるでしょう。

畑正憲「ムツゴロウの少年記」文春文庫☆☆☆
 放浪記と同じく、著者の生立ちを綴った本、医師免許を取得するための父親の苦闘が読ませる、映画化になってもおかしくないような戦中戦後を舞台にしたの波乱万丈記。

平尾和雄「ヒマラヤ スルジェ館物語」講談社文庫☆☆
 1970年代にヒマラヤの麓でバックパッカー相手に現地人妻と宿を提供していた日本人の自著、大変羨ましい記述有り。

畑正憲「ムツゴロウの人間旅行」PHP研究所☆☆☆
 獣医、料理人、CM製作者に著者がそれぞれの業界の内情についてインタービュー形式でまとめた本。

アガサ・クリスティ「クリスチィ短編全集1」創元推理文庫☆
 オカルト趣味の肩透かし作品だったが「検察側の証人」と「SOS」は面白かった。

畑正憲「ムツゴロウのにっぽん大旅行」日本交通公社☆☆
 著者はエッセイであってもなるべく内容が重複しないように心がけているのには感服するが、流石に本中篇あたりはとても疲れていらっしゃるようにお見受けした。しかし後半の像の物語と旧友との再会の2編は秀逸。

ラインホルト・メスナー「ナンガ・パルバート単独行」山と溪谷社☆☆
 世界で初めて
8000m峰全座を無酸素で登頂した、山岳界のカリスマの登攀記、特にこのナンガ・パルバートではそれまでの大規模な編隊を組んで、時間と物量を掛けて登るという常識を覆し、小人数、短期決戦のアルパインスタイルで陥落させた最初のチャレンジとして意義深いようだ。ただ、抽象的な文章なので読みづらかった。

本多勝一「北海道探検記」朝日文庫☆☆☆
 辛口のジャーナリストというイメージが強く、探検記は見劣りするだろうと本棚の肥やしになっていたが、読み出すと面白く、かつ、考えさせられる秀作だった。入植者の悲哀は年を経て追跡取材されており折り目正しい取材姿勢が垣間見える。只、読み物としては前半部分の知床などの未だ人跡未踏だった頃の紹介が面白かった。写真がほぼ2P毎に有るのでイメージしやすかった。

野田知佑「魚眼漫遊大雑記」新潮文庫☆☆☆
 気楽に楽しく読めた、作家として世に出るにはこんなにも人生経験を積んで居なければならないのかとも思えるほど、世界各国でいろんな逸話を持っておられるようだ。なかでもお国柄による人物傾向は面白かった。

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