読書雑感2000  お勧めの本メニューへ  トップページへ
◯長谷川恒男「生きぬくことは冒険だよ」 集英社文庫
☆☆☆☆
小西政継、植村直己等が瀕死になって登攀した厳冬期のグランドジョラス北壁を単独でやり遂げた人の本(世界で始めて冬のアルプス三大北壁を単独で登攀)著者自身は91年に雪崩に遭ってなくなっているがこんな人が居たなんてつい最近になるまで知らなかった、冒頭部分の文章も冴えている、後半はつぎはぎの印象をぬぐえないが何せ著者の本を読んだのはこれが初めてなので他の本も読みたいと思っているこの頃。

◯スティーブン・キング「シャイニング」上・下  文春文庫
☆☆☆
有名な著者の原作を読むのははじめて、翻訳されたモノは名作か推理小説しか読まないので僕にしたらモダンホラーは珍しい領域、原作がそうなのか、翻訳者がいいのかいずれにせよ、リズム感あふれる文章に古典物の翻訳に馴れている者にとって新鮮、映画になった「ミザリー」や「ペット・セメタリー」が好きだったので横溝正史も映画より原作が圧倒的に面白かった様に原作はさぞやと期待して読んだのだが、導入部分が長いうえに精神的な葛藤描写が長い、まるでガンダムのZ以降を相手にしている様だった。ニュータイプのコックとの心の描写部分は面白かったが、後は飛ばし読み、怖くなかった。

◯高橋克彦・宮部みゆき・大沢在昌・井沢元彦対論集 有學書林
☆☆☆
井沢元彦がホストの1対1の対談集、作家の生い立ち、小説作法が書かれている、拾いモノ。

◯佐瀬稔「狼は帰らず」 中公文庫
☆☆☆
登攀者、故 森田勝を書いた物、本によって始めて知った人なのだが個性の強いファイターという印象しか思い出せません。
厳冬期の滝沢第3スラブの初登攀者という事ですが、植村直己さんの本から入って最近になって山の本を漁っている人間にはあんまりピンと来ません。
 個性の強い人物と云うのは将棋の坂田三吉みたくその分野に興味の薄い人の俎上に上り易い様だ。
僕はこの本を読んで長谷川恒男氏の存在を知りました。

◯畑正憲「続ムツゴロウの博物誌」 文春文庫
☆☆☆☆☆
 ヒドラやプラナリア、ユムシ等、ゲテモノがおのおの短編で取り上げて有り、コミカルに生体が紹介して有る。このシリーズは沢山あるが初めて読む、続でこれだから本編はさぞ面白いのだろう。

◯畑正憲「ムツゴロウの大漁旗」 文春文庫
☆☆☆
 動物王国で有名な著者だが釣り人としても一流、地元漁民に分け入って単なる紀行文では無い詳細なエッセイが読めます。
◯綾辻行人「人形館の殺人」 講談社
☆☆
 ちょっと釈然としません。著者は愛着が有ると後書で記して有りますが、変化球が過ぎる。

◯綾辻行人「時計館の殺人」 講談社
☆☆☆☆☆
 おもしろかった、楽しめた、舞台設定、プロット玄妙。個人的には銅鑼の音が後から判明するのが好き。

◯綾辻行人「黒猫館の殺人」 講談社
☆☆☆
 今までの館からすれば随分簡素な造りだったが、こういう結末だったとは、よくまぁ考え付くものだ。

◯泉鏡花「高野聖」 角川文庫
☆☆
 畑正憲さんの本に出てきた蛭の描写に憧れて選んだ読みなれない明治時代の純文学、読みにくかったが蛭の林、蛇の道は期待にたがわず読めた。坊さんは諦めたが、馬丁は現在の境遇を壊したく無かったのでは、女と怪しいと思う。

◯原武「北壁に死す」 山と渓谷社
☆☆☆
 昭和36年に亡くなった著者の自伝、真摯で強烈な自己韜晦が綴られている、女性のこと、扁桃腺の手術、キリスト教と奇妙な附合に驚く。

◯木村殖「上高地の大将」実業之日本社
☆☆☆
 タイトルといい山小屋の主人のごつい写真といいアクの強い自慢話が開陳されていると思いきや、どうして、肩肘張らないいい本だった。上高地の観光地としての黎明期から昭和40年代迄の変遷が綴られている、事件簿も興味深かったが終章の忘れ得ぬ人々の中に加藤文太郎とのエピソードが書かれており当時のつたない装備で雪山単独行をしていた超人ぶりが書かれていて面白い。

◯山際淳司「みんな山が大好きだった」
☆☆
 昔NHKでスポーツキャスターをしていた人の本、食傷気味の「江夏の21球」の作者、新旧の山岳界の著名人がロマンチックな切り口で紹介されている。プロの仕事とは思うが実践ではないので感情移入できないと読みづらい。

◯加藤保男「雪煙をめざして」 中公文庫
☆☆☆
 これ又最近まで名前すら知らなかった山岳界の巨人、3回目のエベレスト登頂(冬期)を果たした後、下山中に33歳で行方不明になった人の直前までの実践集、面白くて一気に読んだ。両足の指と手の指3本を失ったエベレストのビバークも凄まじいが読んでいて緊張感が味わえるのはやはり前章の壁の登攀部分、一体全体にこの作業をする人々を無条件に尊敬している、する人もさせる人も・・・

◯コナン・ドイル「四つの署名」 新潮文庫
☆☆
  短編物は時たま再読しますが、長編は「バスカービルの魔犬」以来の再読、小学校時代に読んだと思いますが、当時もあんまり印象に残らなかったが、再読してもあんまり面白くなかった。

◯コナン・ドイル「緋色の研究」 新潮文庫
☆☆☆
  ホームズもの第一作、小学校時代学校の図書館で絵入の「赤い文字の秘密」として読み、大変面白かった記憶があり、再読してもやはり面白かった。挿絵は今も覚えており、紙切れを持って絶望する主人公と、はいつくばっている絵、鷲がとんでいる絵が入っている当時の本が手に入る物なら求めたい。 後半部分がとても印象深い。

◯加藤文太郎「単独行」二見書房 
☆☆☆
 昭和初期〜戦前に活躍した山岳人、その山行の殆どを単独で行い、凍ったかまぼこを食べ、リュックの中に体を入れてビバークし、捜索に来た人を雪の中からむっくりと起き上がり「私に関しては絶対捜索隊を出さないでください」と述べた強者の山行記、しかしとても繊細な人だったようだ。
当時珍しかった単独行者としての周囲の理解のなさ、など、心情も書かれているが基本的には道順とタイムスタンプ。

◯小西政継「グランド・ジョラス北壁」中公文庫
☆☆☆☆
 植村直己等と苦しめられた登攀記、記録的な大寒波、食料転落、さまざまな不運に見まわれ、生き残るためには登頂しかない状況に置かれた人々の記録、メンバー全員で20数本の手足の指を失いながら完登した記録、値段の割りには頁数は少ないが、内容充実。

◯畑正憲「ムツゴロウの動物巷談」文春文庫
☆☆☆
 まるで落語を聴いているようなユーモアあふれる文章で身近な動物について著者の体験記が1.2P毎に読める。 読むのが楽しい1冊。

◯綾辻行人「セッション」集英社文庫
☆☆
 著名人との対談集、巻末の西原理恵子の漫画が一番面白かった。

◯佐瀬稔「長谷川恒男 虚空の登攀者」 中公文庫
☆☆☆
 森田勝の本の時もそうだったが、故人をいたずらに美化しないインサイダーな切り口はプロの仕事。只、なんでもかんでも世代で括ろうと言うのは面白くなかった。

◯今井通子・高橋和之「夫婦でゆったり登山術」小学館文庫 
☆☆
 女性登山家として著名な婦夫の山のビギナー書、道具や心構え等。

◯植村直己「冒険」 旺文社
☆☆
 小学館から出ている同名との違いはわからないが、植村直己本は殆ど読んでいるので、内容に関して言えば目新しい所は無かったが、校正の関係か北極海辺りはより心情が吐露してあって面白かった。 

◯クレイグ・マクラクラン「ニッポン縦断歩き旅」小学館文庫
☆☆☆☆
 93年に31歳のニュージーランド人が99日間で3200kmを歩いた旅日記、同じ時期バイクで似たような所を通ったので、所々、そうだったなぁと懐かしく読めた。 出会った人物についてづけづけ書いているので、非常に歯切れ良く面白い。

◯畑正憲「ムツゴロウの放浪記」文春文庫
☆☆☆☆
 最近はTVでお目にかかる事は少なくなったが、ムツゴロウさんにこんな過去が有ったとは・・・あの吹っ切れたような行動の源泉はここに有ったのかと思いを新にした1冊、父母の満州での出来事、自身の不遇時代、青春記は途中で投げ出したが、こちらは大変面白かった。 

◯松田宏也「ミニヤコンカ奇跡の生還」山と渓谷社
☆☆☆☆☆
 1982年、中国領7500M峰登山中、アクシデントでパーティーに見放された2人中1人が疲労の中、麓まで辿りつき生還した記録。心に残ったのはテラスに落ちたパートナーが著者を呼ぶ部分、壁の固定ザイルが取外されていた時の怒りの記述。 この本を読むきっかけになった佐野三治さんの「タカ号」漂流ではオブラートに包まれていた対人間の心理が垣間見える。  おすすめ。

◯上田哲農「日翳の山 ひなたの山」中公文庫
☆☆
 山関係の物なら取り合えず押えておく僕が良く行く神戸元町の高架下で著者の事も良く知らずに手に入れた文庫本、戦前・戦後の日本アルプスでの山との日々を自身の挿画を使って綴っている。

◯畑正憲「続々ムツゴロウの博物誌」文春文庫
☆☆☆
 博物誌の完結編、面白かった同シリーズも3冊目ともなるとパワーダウン気味、その中で生への哀歓を書いた「トン死」、ゲテモノ好みの「さなだ軍記」、舞台が面白く楽しく読めた「鳥島病始末記」等、直ぐ読了してしまう本。

                                 
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