メニューへ  ※詩の無断転載はおことわりします。

 

花送り

   しだれ桃の花は 3月の半ばに 花が咲き始め

  やがて満開になった頃には

  雨や風で すぐに散ってしまう

  なんて みじかくて

  なんて せつないのだろう

  地面におちた 白い花びらたちが

  私の想いのかけらのようで 胸が痛くなる

  今 ここで ひとつの恋を葬ろう

  やがて土にかえり 芽をだす日を 祈って


  君へ

  君は風になった

  どこか懐かしく さわやかな風に

  君は空になった

  あらゆる感情を現しだす空に

  君は光になった

  まぶしくてきらきらとした光に

  君はすべてになった

  この世のあらゆる所に君はいる

  わたしは君のことを想う

  楽しそうに うれしそうに

  笑っていた顔だけを ずっと覚えていたい

  後の君のことはそっと この胸の中にしまって

  おくから そのことを許してほしい

  君よ 君はわたしの青春そのものだ


   思い出ガタリ

  今はなき 時計屋をたずねてきた婦人と

  市の民族資料館の職員として働く 祖母とが

  昔ガタリをしている

  今はなき時計屋を知る 古希の祖母の

  話を聞いて

  当時の様子をしのぶ 婦人

  思い出ガタリ

  その人にとって 昔の話を聞くことは

  故人の思い出をたどり

  間接的に故人との時間を共有することに

  つながるのだろう

  そばで 二人の言葉のやりとりに

  耳を傾けていた私にも

  黄昏どきのその当時の風景が

  かいま見えた気がした

  そして まだ若い祖母が風呂あがりに

 
  
時計屋の店先を のぞきこんでいる光景が

  目にうかんできて

  やがては しずかに 消えていった
 


  想起

  散りゆく梅の花を じっとみつめていた

  飽くこともなく 欲するがままに

   ( あの日 わたしの元を去っていった
    あの人を ただ みていることしか
   できずにいた わたしはとても 無力だった )

  梅のかおりが 鼻腔をくすぐる

  わたしはこれからも 散りゆく梅の花を 

  目にするたび あの人との 別れを想うだろう・・・

  それは 無意識の希求だろうか


  癒されるとき

  うっすらと 雲のたなびく晴れた日に

  彼はひとり やってきた ギターを携えて

  やがて ギターを爪弾きながら 歌いはじめた

  彼が歌うと あたりの空気の色が 変わっていく

  やわらかく あたたかく 包み込んでいく

  彼の歌は 私にも 呼びかけてくれている

  なんだかとても やさしい気持ちになれるから

  そうして彼は ギターをケースにもどし

  おもむろに 目をとじた

  さあ 今度は 私の番だ

  ときおり梢をゆらす きままな風に

  小さな生き物たちに 囁きかけながら

  陽のひかりを浴び ゆっくりと背伸びをして

  彼の歌に おかえしをした