メニューへ  ※詩の無断転載はおことわりします。

 

出せない手紙

  頭の中では何度も書いた 君への手紙

  頭の中でだから 君に届くはずもない

  君に届けたい言葉が いくつもあって

  でも いざ書こうとすると 何だかひどくつまらない

  陳腐なものに思えてきて 頭の中にあったときには

  とてもいいように思っていた 言葉たちが

  沈んでいってしまう  それは見事としか

  いいようがないくらい 次から次に

  それでも 日常の ふとした折に 君を想い出し

  君への手紙を 書いてしまう
 
  何度も 何度も 頭の中で

  そうして ときどき

  君からの返事を待っていたりする

  けして 届くはずもないとは 知りながら


 ふたり歩き

  たとえば あなたとふたりで 歩いてみたいのが

  日が暮れて あたりがうすぐらくなってきたころの

  海ぞいの通り家々のあかりも 月のあかりも

  ひとりだと やけにせつないけれど

  あなたとふたりなら きっとへいきだ

  たわいない とりとめのない話ばかり

  わたしはするだろう あなたはそれに

  きまじめに答えてくれるだろう
 
  そうして わたしたちは ながいあいだ 

  ふたり歩きをする


 虚偽

  心を偽る

  わたしはもう あなたを 忘れたと

  ほんとうは 黄色い水仙の花をみるたび

  どうしようもなく 心がざわめいて

  わけもなく 涙がこぼれてしまうとしても

  わたしは偽るのだ これから過ごしていく日々を

  あなたへの飽くなき想いを

  一方ではっきりと 自覚しながら・・・


  春雨に想う

  今日に降った雨は とても細やかで やわらかくて

  それでいて ふと気付くと 意外なほどに

  顔や服や手足を濡らしていて そこに

  さりげないものの たしかな存在を感じ

  そうしてふと こういうことはよくあることだと思った

  私はほかにも さりげないけれど

  たしかな存在を感じさせるものを
 
  いくつか 知っている


 恋心

  深夜 外へ出て 夜気を感じていた

  肌寒さを覚えた 何気なく 夜空を見上げた

  雲が月に覆い被さり その姿を隠していたが

  まぶしすぎる 月の光は その隙間を縫って

  滲み出していた 

  それは この身から隠しても隠しきれないほど

  滲み出している 恋心を思わせた