メニューへ ※詩の無断転載はおことわりします。

感触

  狭い商店街の一角 とある小さな店

  風情のあるその店先に

  今が盛りのハクモクレンの花枝が

  水の張られた瓶の中で

  穏やかな弥生の陽気を浴びて

  どこまでも広がる 薄い青色をした空を

  じっと 見上げている

  その姿に なぜだかひどく 圧倒されて

  私はしばらく 立ち止まっていた

  そして どうしてもこらえきれずに

  花びらに そっと触れてみた

  すると どうだろう

  やわらかいとばかり 勝手に思い込んでいたそれは

  意外にも質感があり ほんの少しばかり

  硬いように 感じられた

  これは私にとって

  新鮮な驚きでもあり ちょっとした発見でもあった

  この日のことを 忘れずに覚えていたいと思う


 風に鈴なるもの

  風にふかれて 時々凛とした
 
  心の強い音を 響かせる風鈴

  儚いながらも たしかな自尊心を持ち

  聞く者の心を ひきつけて放さない

  ふと そんな人を 知っていると感じた

  風に鈴なるものの たおやかな音色に 

  揺られながら


  特別な存在

  何年かぶりに その名を人の口から聞いて

  今 何をしているかを知って

  その人にすごく逢いたくなった

  私のなかに 今も くすぶっている

  その人との 懐かしい思い出

  私はたぶん あの人のことを

  忘れられないと思う

  どこで 何をしていても きっと覚えていて

  思い出すだろう

  あの人は特別だった

  そして あの人はこれからも特別だ


 願い

  雨の洗礼を受けて じわじわと色をつけていく

  紫陽花よ

  重みに耐えられず 葉からあふれた雨粒が

  ぽとっ ぽとっとこぼれおちていく様を

  窓ごしに じっと見守る私がいる

  雨を体に浴びて 何もかも流してしまえる

  そして 綺麗になれる そんな君が羨ましくて・・・

  私も君の側で この降り止まない雨を浴びながら

  嘘、偽りだらけのこの心を 

  洗い流してしまえたらいいのに

  そうしたら 本当の ありのままの私に

  少しでも 近づけるだろうか?


  水田で

  水面にうつる さかさまの景色をみるのが すきだ

  心地よい風が吹いて 水面をなみだたせるのも

  いいし あめんぼがすーっと 

  水をきってすすんでいくのもいいし
 
  田植えの前の あのしずけさがすきだ

  ゆらゆら揺れている 水面をみていると

  自分の意識まで ゆらゆらと ただよいはじめる

   のをかんじる 

  そして 心も こんな広い場所で

  水にさらせたらいいのにって思う

  じっくり時間をかけて 水がしみこんでいくのを

  待つのだ

  乾燥しきった心も そうすることによって 

  回復していくのだ

  そんなことを さかさまの景色をみながら 

  ぼんやりかんがえている