メニューへ  ※詩の無断転載はおことわりします。

陽だまりの場所

  今はもう ほとんど行くこともないが

  中学生の頃の私が 一番好きだった場所

  それは 三階建ての こじんまりとしたデパートの

  一階から二階にかけての 踊り場の隅だった

  そこにあるベンチにすわっていると

  時間のことは 頭から遠ざかっていった

  そこから見る風景が何より好きだった

  いつまでもそうしていたくて

  その誘惑は いつも 私の中にあった

  窓からさしこむ 西日にうながされ

  重い腰をあげて 立ちあがるとき

  陽だまりのその場所は 心なしか わびしげにみえた

  あの頃の私は そこの空気と 完全に同和していた

  あの頃の私が欲しかったものが そこにはあった
 


   ヤブツバキの小道

   犬とあるく 冬のさんぽみち 

   ふと気がつけば

   ヤブツバキの花で あふれかえっていた

   それは群といってもいいくらいに

   ヤブツバキの木は 白っぽい色をしていて

   触れると すこしざらりとした感触

   シンプルといっても語弊ではないくらい

   それでもって すこし つれない気がすると 私は思っている

   一様に背の高い彼らを あおぎみていると

   足元で 早く行こうという 犬のそわそわとした気配

   仕方ないと その場をあとにし

   またくるよと 声をかける

   どっちでもいいよって そんな声が

   ふっと 聞こえた気がした


  解釈

  ムシャクシャする気分を抱えて 外にでた

  雨があがった空をみあげた

  そこには 顔をだしたばかりの 月がいて

  それをみていたら いつのまにか

  肩の力がぬけていた

  これは 私が月が好きなのを

  知っている神様が みせてくれたのだ

  気分を和らげなさいという おぼしめしなのだ

  と 解釈した 自分に都合のいいように

  そうして そういうことも きっと
 
  必要なのだと思った


   挨拶だけの関係

  その老婦人はご主人を亡くしてから

  独りで暮らしている おそらくは 

  つつましい生活を送っているのだろう

  私はその人とはあまり言葉を交わしたことは

  ないけれど 犬の散歩の途中で 

  毎日のように お墓参りをする

  その姿をみかけている

  北海道出身だというその人が

  なぜこんな南国で暮らす事になったのか

  私には知りようはずもない また

  とても 問い掛ける事などできないだろう

  あんなにも 足しげく お墓参りをしている

  人に向かって

  あんなにも さみしげなうしろ姿をしている

  人に向かって

  その人の 思いのつよさに 圧倒されながら

  私は今日も 挨拶を 交わしている


 白紙

  本とは友達だと思っていたけれど

  読書感想文とは 友好的につきあえなかった

  一方的に毛嫌いしていたのは 私

  うんうん唸りながら 原稿用紙の升目と

  格闘していた 私

  提出するときの あの後ろめたい気分は

  言いようもないほどだった

  誇張された 感動した・一番心に残っている

  等々の 文章のラレツ

  そこに書いてあることは まるきりの嘘でもなか
 
  ったけれど 自分で読んでみても

  お行儀のよすぎるものだった

  あの時の私が 本当に出したかったのは

  白紙の原稿用紙