第2回『風にならないか』
前回、「誉める」ことについて書いたので、今回は「攻撃する」ことを取り上げたい。曲
は『風にならないか』(アルバム『LOVE OR NOTHING』収録) こんな風に
始まる。
むずかしい言葉は自分を守ったかい
振りまわす刃(やいば)は自分を守ったかい
降りかかる火の粉と 降り注ぐ愛情を
けして間違わずに来たとはいえない
私はこの歌と1995年4月のコンサートで初めて出会った。冒頭の歌詞が流れてきたとき、愕
然としたことが忘れられない。それは、私自身の生育暦そのものだった。
少女時代、親からいつも生意気だと言われた。えらそうなことばかり言うので、勉強なん
かできなくてもいいから、素直でかわいいほうがいいと言われた。でも私は、私のことをちっ
ともわかってくれなくて、命令ばかりする親に反抗しつづけた。
コンサートの会場で、呆然と聴き入っている私の耳に届いてきたのは
二度とだれかを傷つけたくはない
されど自分が傷つきたくもない
互い違いにと心は揺れる
結局は自分が可愛いんだけれど、相手ともうまくやりたかった。でもどうしていいかわか
らないから、やたらに刃を振り回していただけかもしれない。相手を傷つけるつもりはなかっ
たけれど、自分を守るために相手を攻撃していた。
2番の歌詞はこのように始まる。
自由になりたくて孤独になりたくない
放っておいてほしい 見捨てないでほしい
一見矛盾しているようだが、当時の私の心模様そのままだったと思う。あれこれ指示され
たくなかった。望むとおりの行動をしたかった。でも、内心は淋しくて、私を認めて欲しい、
わかって欲しい、見守って欲しいと切望していた。そして、以下の様に続く。
望みはすばしこく何処へでも毒をまく
やがて自分の飲む 水とも知らないで
望みをうまく口にできない。相手を攻撃してしまう。そしてその後に必ず訪れる自己嫌悪。
自分がまいた毒は、確実に自分のところへまわってくるのだ。
出会った最初から思い入れが強く、私にとってはプライベートな曲だったので、他に好き
な人はいないだろうと勝手に思い込んでいた。中島みゆきの曲の中でもマイナーな部類に入
ると思うが、好きだ、とても好きだというファンが意外に多い。共感しているのは、私だけ
ではなかったようだ。
内面の孤独をかかえているのに強がって、自分を守るために刃を振り回す。自分の淋しさ
は口にできず、代わりに本に書いてある難しいことばかりしゃべる。そんな私たちへの中島
みゆきからのメッセージは、「風にならにならないか」だ。
あてにならぬ 地図を持ち ただ立ちすくんでいる
もう風にならないか ねえ 風にならないか
このいまわしい身体を脱出して、自由な風になれたら。もう誰も傷つけないだろうし、自
分も傷つかなくなるだろうなぁ。それができないのが生身の人間の悲しさだけれど。でも、
「今のままでいいから、心は風になろうよ」と呼びかけられると、がんじがらめの自分から、
1歩抜け出せる思いがする。