02盛夏 奥穂高登山その2   その1へ  終章へ   トップページへ

 前夜バスで寝られなかったので消灯までの間、軽く寝たり、落として壊れたデジカメを直したりしたので時間を持て余すことも無く過ごす。 ここにはテレホンカードで使える電話が有るので重宝した。
 登山者は早寝、早立ちが原則のようなのだが、僕は本棚の前で過ごしていたら山小屋の人が寝室の電気を消したので本棚コーナーから寝室に戻る、少し寝たせいか、日頃の夜更かし癖のせいか布団の上で目の冴えたまま過ごしていると、壁越しに女の人の電話の声が聞える、語尾に「ちゃ」が付くので北方九州の人だろうか、息子が神輿を担ぐのを危険だからさかんに辞めるように言っている。

 山小屋の朝は早い、五時頃に朝食のアナウンスがあり暫く経ってから食堂へ、初めて見る山小屋の食事は乏しい食材を工夫している様が感じられる。薄い鮭の切り身、卵とじ一つとってもここまで運ばれてきた経緯を思うとおろそかには食せない。
 隣の青年も含め同室の3人は早々と布団をたたんで出発する中、僕はテラスでパノラマ写真撮ったりしてゆっくり過ごす、九時頃山小屋から少し下ったテント場横で再び登山届出して、もう一つの山小屋「涸沢小屋」でソフトクリーム¥500食し、500mlペットボトルのお茶¥400を魔法瓶に移し替えた後、同室の青年に教えてもらった北穂高を目指し右手の登山口へ、

 息鳴、雪渓が現れる、未だこれに馴れない僕は、これを避け岩道を巻いて登る、といってもさえぎるものが無いので結構高度感も有り、中腰で岩を掴みながら登る、暫く登ったところで休止、「うーん楽しくない」こんな道をずっと行くのか、と、座って考えた末に降りる事に、暫く下ってから財布が無いのに気が付き再び登り返す、程なく小休止地点で見つかったが北穂方面はこれで全く見切りをつける、涸沢小屋に戻り奥穂高方面の登山道を行く、ヒュッテからのパノラマコースよりはマイナーなのか人も少ない道を歩く、最初の頃は低木に囲まれた落ち着いた道、次に岩道を歩き、涸沢カールに出る。
傾斜もそうきつくなく、雪渓歩きも無く、技術的にも難しくなさそうだ。

 森林限界も超えむき出しの山肌に浮き石のガレ場、樹林が無いので遥か遠方まで見渡せ、高度感もいや増してくる、高所が余り好きではないので落ち着かない、所々高山植物が有り、名も知らないこれらの花を接写で撮りながら高度を稼ぐ、しかし気楽に登れたのもここまで位で、小高い丘から先はより一層の高度感の有る岩稜登りが始まる、身体を岩にくっつけて足を取られないように1歩1歩慎重に歩みを進める、とても馴れた人のようには行けない、頂上近くの穂高岳山荘までは約3時間だそうだがこの辺に来ると成る程なと思う。
 何時までも続く岩稜にうんざりしながら登っていると、鎖場が現れこの先どれだけこんな部位が有るのだろうと本気で引き返す事を考える、そこを越えた岩場で長休止、時計は11時を回っている、この頃になると縦走など考えていた気分はすっかり失せて今や、穂高岳山荘に辿り着けるかどうかに焦点は移っている、コーヒーを沸かしながら降りる中高年の人に訊けば、この先、鎖場もなくそんなに難しい所も無いですよとの事、再び行動を開始するが、暫くして白いガスが出てきた、12時近くになっていたが、これは全く予想外で快晴でも山頂付近は油断がならない。
 幸いにして程なく「穂高岳山荘」に着いたAM11:43が、あのガスの中を登りつづけるのは初級者にはしんどいところだった。

 日本では3番目に高い山「奥穂高岳3190m」山頂より200m程度降りた、ほぼ3000mの稜線上に有るこの山小屋にチェックイン、ガスにより辺りはすっかり白くなって、時間は早いがアッサリ頂上への登山は諦める。
 白馬岳という大きな部屋に入り、立派な図書コーナーから本を持ってきて過ごす、ラジオはAM,FMとも大変良く入り、NHKFMでは埼玉県の高校野球などをやっている。
 山小屋横の急傾斜の奥穂山頂への登山口に行く気にはなれず夕食までの長い時間を過ごす、只、夕方頃山頂から下山してくる人や、涸沢から登ってくる人を見てガスが出ても行けるんだなと思った。
 夕食後、部屋に一人で居るとスタッフが来て布団は一人一枚使えますと教えられ喜び、その後戻ってくる人にいちいち伝える任を負う。 しかし夕方頃一組の中高年男女が他の部屋から噂を聞きつけたのかやって来るも別々の場所しか空いていず、おっさんの方が僕の横へ、このおっさん、先に寝入って軽いいびきをかいている人に愚痴っていたが自分の方がコブシの利いた酷いいびきで一晩中やられた、おまけに寝相が悪く足を身体の上に乗っけてくる、一度などドカッと来たので、蹴り返した。 山小屋と云う所では日常茶飯事なのだろう、悪気は無いのだろうが日頃の無神経さも伺える寝相で、一晩中眠れなかった。 救いは入感のよかったNHK深夜ラジオ劇場、村上春樹原作の「カエル君」が面白かった事。
 
 7/30明朝3:30頃山小屋は動き出したが、なまじ朝食を頼んだおかげで出かける事も出来ず、眠れもせず朝を過ごす。その癖、最初の朝食期が何時の間にか始まっており、時間ロス。空身で登山口を仰ぎ見るも気分が盛り上がって来なかったし、今日中に帰る為には時間も微妙だ。息鳴のハシゴと鎖場に気負わされたのも事実で、山頂登頂は諦め、AM6時に涸沢に向かって下山する。 一般に下山はより高度感も有り、登りよりも怖いと云うが昨日のルートがどうなっているのか判らないのに較べたら一度でも通ったところは気持ち的に楽だった。 昨日の鎖場も拍子抜けするぐらいで、やはり先の見えない不安が足を重くしていた様に思う。 とはいえ勇み足やつまづいたりしたら恐ろしい事になるので慎重に岩を掴みながら降りる。
 すれ違う登山者は馴れなのか、山登りのDNAを引き継いでいるのか中高年女性でも留まる事無く登下降している、下界の過剰気味のバリアフリーから考えたらその突き放し方が心地よいが、やっぱり僕が親なら子供にはして欲しくない趣味だなと思う。 緩やかで滑落しても大丈夫そうな雪渓を歩き、パノラマコースを行く、小振りの高山植物は可憐で綺麗だが虫を呼ぶためか人糞のような臭いを出す物も有り、人間の勝手な思い込みだが似つかわしくない気分になる。

  

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低松より前穂稜線を見る  穂高岳山荘と白ガス   奥穂高付近より